ゼロ金利政策とその影響


オーストラリア準備銀行(RBA)は、政策金利を過去最低水準まで再び引き下げることを発表しました。シドニーを拠点とする会計事務所Easton Wealth(イーストン・ウェルス)の経済専門家Emmanuel Calligeris(エマニュエル・カリガリス)氏が、金利引き下げの影響について分析します。

オーストラリアと世界の変動性

近年、金融市場は渦中にある貿易戦争の動向によって影響を受けており、過去2ヵ月間における市場の変動性が高まりました。貿易戦争による景気後退を反映して政策金利が下落したことから、7月の株式市場は上昇しました。しかし、ドイツで第2四半期にマイナス成長を記録したこと、さらにドイツ連邦銀行(ブンデスバンク)が第3四半期も景気後退が続く可能性を警告したことなど、金融市場の変動性を引き起こす問題が他にもあります。2四半期連続してマイナス成長を記録すると景気後退と判断されるため、上記の傾向に着目することが重要です。欧州最大の経済大国であるドイツが景気後退に陥ることで、その他の欧州諸国に対して、どのような影響を及ぼすことになるかという疑問が浮上してきます。景気が後退するにつれて、失業率が上昇し投資が減少します。さらに、政府は金利低下を受けて経済を回復させるために、投資を余儀なくされます。幸いなことに、財政支出により来年度の経済成長率が0.7%拡大する可能性が出てきたことで、その他欧州諸国における景気後退を回避することが期待されています。欧州のリスクとして、英国の合意なきEU離脱が懸念されています。英国のEU離脱(ブレグジット)問題により、欧州連合で大きな変動率が発生しました。この合意なき離脱によって、フランス、ドイツ、オランダの輸出に悪影響を及ぼす可能性があります。

日本のGDP成長率は鈍化しており、輸出の伸び率が低下していることが要因としてあります。香港では、この成長鈍化がさらに悪化することが予想されます。理由として、現在問題となっている暴動が、香港を含む先進国にとって経済成長の重要な要素である個人消費を抑制しているからです。オーストラリアでは、家計債務の増加と賃金上昇率の低迷による消費抑制が、経済成長鈍化につながっています。2つの重要な要因として、物価高とインフラ投資があります。鉄鉱石に関しては、ブラジルで発生した鉱山ダム決壊事故により供給が停止したことで、鉄鉱石価格が高騰しました。しかし、現在は供給が再開されて通常価格へと戻りつつあります。これは、オーストラリアの鉄鉱石による輸出収益が来年度における経済成長のけん引役となる可能性が低くなることを示しています。さらに、干ばつ問題が解消されないかぎり、農産物の輸出で成長鈍化を補うことは難しいと考えられます。

8月上旬、貿易戦争の激化によりオーストラリアと米国の株式市場が下落し、オーストラリアの定期預金と債券の金利が過去最低水準まで下落しました。低金利の状態が続くと、歳出が今後の経済成長の重要な推進力となるでしょう。

世界経済成長率の鈍化に応じて、米国の政策金利は迅速に調整されました。歴史的に、米国10年国債利回り(金利)が米国2年国債利回りを下回ると、米国の景気が後退する可能性が高い予兆と考えられています。この現象を逆イールドカーブと呼びます。景気後退の可能性が確定しているわけではありませんが、逆イールドカーブは、連邦準備制度理事会が来年中に政策金利を大幅に引き下げる可能性が高いことを示唆しています。オーストラリアでは、RBAが政策金利のオフィシャルキャッシュレートを2度引き下げ、過去最低水準である1%としました。RBAは、賃金上昇率がインフレ見通しを脅かすことはなく、さらに低失業率においても安定した経済を動かすことは可能であると考えます。これは、景気を過熱することなく金融政策(金利)を長期的に引き下げることが可能であることを、本質的に意味します。つまり、2019年後半から2020年前半にかけて政策金利はさらに低くなる見通しであり、一部の専門家は、その時期までに0.50%までに下落すると予測しています。この低金利を反映して、定期預金金利も低下しました。

低金利の影響

政策金利の低下によって、預金者にジレンマが生じています。金利が下がると、同水準の資産収入額を維持するためにより多くの資金が必要となります。以下の表をご覧ください。

Capital prices and interest rates
Investment amount ($)Fixed income ($)Interest rate
500,000.0050,00010%
625,000.0050,0008%
833,333.3350,0006%
1,250,000.0050,0004%
2,500,000.0050,0002%

この表は、金利が10%の時に投資家が50万ドルを投資することで、資産収入として5万ドル獲得できることを示しています。金利が6%に落ち込んだ場合、同じく資産収入として5万ドルを生成するには、投資額約83万3千ドルが必要となります。さらに金利が2%の場合、同額の資産収入を生成するためには、250万ドル必要となります。

異なる視点で考えると、資産収入5万ドルを生成できる投資を所有している場合、金利額が低いほど投資価格は上昇します。このケースは、過去30年間における債券と、世界金融危機後10年間に配当成長を維持した不動産と株式に当てはまります。投資家が自己資本額を増やさずに50万ドルを投資した場合(例 定期預金)金利2%で1万ドルの資本収入しか生成できないでしょう。

低利回り環境での投資

これまで不動産と株式投資家は、低金利環境に恩恵を受けてきました。彼らは、将来受け取れる利回り率の低下よりも、金利低下より生じた市場の利益に注目してきました。私たちは現在、将来の利回り率低下が見込まれる環境下にあり、そのような状況において「どこに投資すべきか」という疑問に直面しています。より高い利回りを獲得する最も容易な方法は、国内株式や国外株式などの伝統的資産や不動産への投資を増やすことです。しかし、投資家がより高い利回りを求めるには、より高いリスクを負わなければなりません。金融資産全体のバランスが過度に崩れておらず、投資家が資産配分において規律を維持することが重要です。将来財政支出が増加する場合、インフラ部門に注目することが短期的な見方において適切かもしれません。

株の銘柄選択に関して、近年の不動産と株価上昇の影響により、これらの資産クラスが不当な企業価値評価を得ました。その結果、この見解を行った一部の資産運用専門家にとって、それぞれの運用成績が指標を下回ることとなりました。私たちは、低コストのインデックスファンドと慎重な選択が不可欠なアクティブファンドを組み合わせる方法を用いると、相対パフォーマンスが向上するだけでなく、コスト削減にもつながると考えています。株式や不動産は短期間で完全に価値が決定されますが、金融資産の一部として保有しておくべきでしょう。投資家は短期間の取引について慎重になるべきですが、弱気相場にエクスポージャーを増やすことに目を向けるべきです。今後数年間で、株式と不動産市場において低成長・低インフレの状況の中で低利回りを獲得することが標準となるでしょう。つまり、緩やかな経済成長が見られ、最適な配当金を獲得できる可能性があります。